いきなりですが、皆さんは選挙速報を見ていて、まだ開封して少しなのに「当選確実」という表示を見て驚いたことはありませんか。
選挙特番では、選挙結果をいち早く国民に伝えるため、「当確レース」に各メディアはしのぎを削っています。
そうはいっても、メディアはただ情報が早ければいいわけではなく、正確な情報を伝えなければなりません。
各メディアは、正確な当選確実情報を出すために、出口調査や入念な事前取材を行い、その結果をもとに判断しています。
そして、その判断には統計学の考え方がとても重要になってきます。
それでは選挙速報において、一体どのように統計学が活用されているのか解説していきます!
この記事を読むと分かること
- 選挙速報で当確がすぐにわかる理由
- 統計学と選挙速報の具体的なつながり
当選確実が早く出る理由は統計学ともかかわっていて、雑学的にも面白いお話です!
是非最後まで楽しんで読んでいただければ幸いです!
統計学を用いて当選確実を予測
さて、ここからは統計学で当選確実を早く予測する際の考え方を詳しくご紹介していきます。
みそ汁の味見と同じ
統計学における標本調査を考える際、みそ汁の味見というお話が良く出てきます。
一見、全然関係ない話のように思えますが、とても分かりやすい例えですのでご紹介します。
これは、立川志の輔師匠の落語で有名なマクラです。
数学者・秋山仁先生に「開票率5%で当確なんておかしい」といったところ、
「それが統計学ですよ」
「まだ開票率5%なのに?」
「あなたね、みそ汁を作って味見するのにどんぶり鉢でぐーっと全部飲む?」
「・・・小皿ですよね」
「それが5%よ」
これは、ランダムに取り出したデータ(標本)から、データ全体(母集団)の傾向を推測する標本調査の例えです。
選挙の場合、すべて開票を待てば正確な得票数が分かりますが、当選確実を判断するには傾向が分かれば十分です。
ただし、標本調査の結果が僅差であれば、無作為に抽出したとはいえ本当に正しく当選確実を推測できているか判断するのは難しいので時間がかかります。
当選確実を統計学で判断する「区間推定」とは
それでは当選確実を判断するために使われている統計学の考え方とは何でしょうか。
それは「区間推定」です。
区間推定とは、正規分布を前提として、標本のデータからある区間内に母数の平均が含まれることを推測する手法です。
つまり、「〇%~〇%の間にデータ全体の平均が含まれている」というのを公式をもとに導きだします。
統計学では、正規分布という左右対称な釣鐘型の分布がよく使われます。
この正規分布は、平均を中心として左右それぞれに1.96倍した区間内は分布全体の95%を占めている性質をもっています。
これを95%信頼度と呼ぶのですが、選挙の当選確実は、この性質を利用して推測しています。
この区間推定は下記の公式で計算できます。
- データ全体(母集団)からn個をランダムに取り出す
- n個のデータのうち性質Aを有するデータの比率をrとする
- 母集団のうち性質Aを有するデータの比率をXとする
この公式を使い、95%信頼度を求めます。
60%得票率の場合
それでは具体的な数字を使って説明しましょう。
分かりやすく計算するために、立候補者がAさんとBさんと2人と想定します。
当選確実ということは、つまりは過半数以上の票を得なければなりません。
全投票者のうち1000人分を開票した段階で、600人がAさんに投票したとすると、以下のような計算式になります。
- n=1000
- r=0.6(=600÷1000)
式に当てはめて計算すると、答えは「0.56≦X≦0.63」となります。
つまり、95%の信頼度でAさんの得票率が56%~63%の範囲の中にあると推測できます。
もし投票者の総数が10万人だった場合、開票数が1000人であれば開票率は1%です。
つまり、開票率1%でもこの得票率ならAさんが当選確実とだせます。
ただし、あくまで95%の信頼度ということは注意しなければなりません。
場合によっては、すべて開票したら落選だったということもあり得ます。
実際に、過去にイギリスで当選確実が外れてしまったという例もありますので、確実なものでないということは念頭に置いたうえで参考にすることが大切です。
当選確実が外れてしまった事例:https://seijiyama.jp/article/news/nws20211031.html
また、調査の際は、年齢や男女など偏りがないようランダムで、全体の投票者の行動と同じになるような比率で抽出されているかがとても重要です。
例えば、開票された1%がAさんの支持基盤の地区に偏っていた場合、調査結果も偏ったものになってしまい、信頼性に欠けるものとなってしまいます。
当確ラインの求め方
以下の図は、開票をしていくにつれ、得票率が何%なら当選確実になるかを示したグラフです。
- nが開票数
- yが当確ライン(%)
例えば、1000票開けたときに600票がAさんの票であれば、Aさんは95%の信頼度で過半数の得票数で、当選確実となります。
開票速報の舞台裏
当選確実になった候補者を報じることを「当打ち」といい、開票率0%の段階で報じることを「ゼロ打ち」といいます。
選挙開催が決まると、各メディアは一斉に事前調査に乗り出します。
少しでも早く正確に当打ちをするために、事前調査として票読みや調査データの集計が必要です。
具体的にどのようなことをしているのでしょうか。
票読み
政党や候補者の選挙事務所、選挙に影響力を持つ団体などを記者は事前に取材をします。
有力な組織が選挙の情勢によって支持を大きく変えることもあり得ますので、注意深く動向を追っていく必要があります。
その他、過去の実績や候補者の知名度なども参考にしていますので、幅広い情報を網羅する大変な作業です。
ただし、これはあくまで事前の予想です。
アンケートや質問を回答してくれた人が実際に投票に行くかはわかりませんし、選挙事務所の予測が外れる可能性もあります。
また、選挙当日の天候や無党派層の行動などが色んな要素が複雑に絡み合い、選挙が終わってみるとまったく予想とは異なる結果となることもあります。
そのため、事前調査だけではなく、選挙当日の出口調査も大事な指標として投票結果を予測し、当選確実かどうか判断しています。
出口調査
1989年の参院選で国政選挙としてははじめて出口調査が行われました。
出口調査は、投票所で投票を終えたばかりの有権者に直接どこに投票したかを尋ねて集めるデータです。こちらも重要な判断材料の1つです。
ただし、先述したとおり年齢や男女など偏りがないように無作為に、全体の投票者の行動と同じになるような比率で抽出する必要があります。
そのため、出口調査は2段抽出法を使っています。
出口調査の2段抽出法
- 1次抽出:投票区の抽出
- 2次抽出:抽出した投票区の投票者個人
出口調査の結果によって、開票率0%で当選確実ということを推定できる場合があります。
2段抽出法や無作為抽出については以下の記事で詳しく解説しています。
無作為抽出(ランダムサンプリング)とは 種類や具体例とともに解説!
過去の当確事例
2021年7月 東京都議会議員選挙
2021年7月に行われた「東京都議会議員選挙」で、投票を締め切る午後8時、開票率0%の時点で当選確率が出ました。
NHKの出口調査では、都内484箇所の有権者4万3600人を対象に2万6359人から回答を得ていると発表しています。
2020年11月 大阪都構想 住民投票
2020年11月に行われた「大阪都構想」の賛否を問う住民投票では、開票率73%になった22時時点でもどちらが勝つか判断できない状況でした。
その理由としては結果が超僅差だったためです。
このとき、「反対」は50.6%(69万2996票)、「賛成」は49.4%(67万5829票)とその差はわずか1.2%(1万7167票)の大接戦でした。
2017年10月 衆議院議員総選挙
テレビ朝日系とTBS系の選挙特番で当確ミスが起こりました。
新潟3区で自民党前職の斎藤洋明氏を誤って「当選確実」と報じ、その後民進系無所属の黒岩氏が「当選確実」と番組内で訂正しました。
わずか50票差という大接戦だったのが理由として考えられます。
まとめ
今回の記事では、当選確実を判断する仕組みをご紹介しました。
各メディアでは、選挙速報の「当確」をいち早く出す報道合戦が過熱化しています。
統計学を活用し得票率を推測するのは素晴らしいことですが、早く報じることが目的になっては本末転倒です。
各メディア十分注意されていることと思いますが、正確な情報を国民に届けていただけるよう、これからも統計学をうまく活用してもらうことは必須といえるでしょう。
また、情報の発信者側だけでなく、私たち情報を受信する側も統計リテラシーを持ち、調査の背景まで目を向けられるようになることが重要です。
ちなみに、似ている話で内閣支持率の調査についても統計学が大きく関わっています。
こちらも面白いお話ですので、気になった方は是非以下の記事も読んでみてください!
内閣支持率と統計学の関係 世論調査の仕組みや算出方法など徹底解説!
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