近年、占いが流行っていますね。
占いのなかには、将来を予言するものもあります。
しかし、その予言は果たして本当なのでしょうか。
もしかしたら、たまたま当たるだけなのでは、、というケースもあるかと思います。
そこで今回は、統計学で予言の妥当性について考えていきます。
今回取り上げるのは、ワールドカップの勝敗を予言したとされているとある生き物のお話です。
現れたワールドカップの予言者
2010年、ワールドカップ。
サッカーの国際試合に世界中が釘付けになっているなか、ワールドカップの8試合で勝敗を的中させたとある予言者が話題になりました。
その予言者とは
なんとタコだったのです!
ドイツ・オーバーハウゼンの水族館シーライフで飼育されていたタコのパウルは、ワールドカップの勝敗を的中させるということで話題になりました。
予言の方法は、以下の通りです。
- 対戦国2つの国旗を貼ったプラスチックのケースを用意する。
- 中にエサを入れる。
- パウルが選んだ国旗が勝利する国。
この方法でパウルは、なんと予想した8試合全ての試合結果を的中させました。
これは驚きです。
さらに、2008年のUEFA欧州選手権では、6試合を予想し、4試合を的中させています。
ワールドカップと合わせると、14試合中12試合も的中させたことになります。
勝敗をランダムに選んだとして、14試合中12試合も的中させる確率は1%以下です。
統計学では、よく有意水準5%で考えることが多いですが、その基準で見ても統計的に有意な確率であることは明らかです。
つまり、統計学的にはパウルには予言能力がある!ということになります。
しかし、パウルには本当に予言の能力はあったのでしょうか。
答えは、否です。
いくらタコが賢い生物だとしても、サッカーの勝敗を当てる能力を持っているなんて、ばかげた話です。
でも、何故パウルはここまで的確に試合結果を当てることが出来たのでしょうか。
実はこれ、”タコの習性”、”とある国の勝利”などのいくつもの偶然が重なって起こったことだったのです。
パウルの予言が的中した理由
タコには、視力と記憶力があることが様々な研究から分かっています。
例えば、シアトル水族館で行われた実験があります。
タコの前に、同じ服を着た人間二人が現れます。
一人はタコを棒でつつくなどして、嫌がらせをします。
そして、もう一人はタコにエサを与えます。
これを1週間続けたところ、
タコはエサをくれる人の時は近寄っていき、
嫌がらせをする人の時は離れていったのです!
これは実験したほとんどのタコに見られた傾向で、このことからタコには視力や記憶力があるということが分かり、
そして予言の際も、タコには国旗を見分ける能力はあったということが分かります。
また、タコには横長の模様を好む傾向があります。
特に自国ドイツは横長模様の国旗だったので、パウルはドイツを選びやすくなっていました。
さらに、「ドイツの国旗のところにはエサがある!」ということも覚えてしまったため、
ドイツの国旗を選ぶ傾向が強まったのではないかと思います。
実際、パウルは、決勝戦のスペインVSオランダ戦以外は、すべてドイツが対戦する試合を予測していました。
そして、ドイツが対戦する13試合のうち、11試合でドイツの勝利を予言しています。
そして、ドイツ以外の勝利を予想した試合、スペインVSドイツがありましたが、
スペインの国旗も横長模様であり、少しドイツと似ています。
そのため、スペインVSドイツ戦で、同じ横長だったので誤ってドイツ以外を選んでしまったのだと考えられます。
そのため、パウルに予言能力があったわけではなく、
”ドイツがよく勝つ”、”タコが横長模様を好む”、といった偶然が重なった結果だったのです。
まあ、運は良かったのかもしれないですが。。。
予想的中も非難殺到
ここからは少し余談になります。
ワールドカップ決勝トーナメントの準決勝で、パウルは自国ドイツが敗れると予想し、実際にこの予想が的中しました。
するとパウルのもとには、
「パエリアにしてしまえ。」
「今晩はタコサラダだ。」
などの非難の声も多数あがったと言います。
また、国内だけでなく海外でも、パウルの予想が的中し負けたイランの大統領から批判を受けました。
完全に八つ当たりです。
サッカーの試合で自国が負けてタコにキレるというのは、少し不思議な光景です。笑
パウルは人間にやらされていただけなのに、少しかわいそうですね。
パウルのその後
パウルはその後、たこ焼きに・・・というのは嘘で、
ワールドカップ終了後は、予言者(予言タコ)を引退し、元々の水族館で皆を楽しませる業務を全うしたそうです。
そしてパウルは、2010年10月26日に3歳で亡くなりました。
3歳はタコとしては高齢で、死因も老衰だったようです。
水族館には、パウルの偉業を称えたモニュメントも作られ、現在でもパウルの伝説は語り継がれています。
ちなみに当時は、パウルの人気にあやかり、動物を使った予言が世界各地で行われるようになったそうです。
みな第二のパウルを目指して、予言をしていきますが、パウルを超える予言生物は未だ現れていません。
実際に予言能力はなかったものの、運よくあそこまで的中させたという点で、
パウルには他のタコにはないスター性があったのかもしれないですね。
(参考)『データは騙る 改鼠・捏造・不正を見抜く統計学』Gary Smith. 川添節子訳 ,早川書房, 2019
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