ここ数年で新型コロナウイルスがすごく蔓延してきたと思います。
このような感染症ですが、実は統計学と密接な関係があることをご存じでしょうか。
今回は感染症の一つである、コレラと統計学の関連性についてご紹介いきたいと思います。
この記事を読むと分かること
- コレラと統計学のつながり
- ジョンスノウの功績
是非最後まで楽しんで読んでください!
コレラとは
コレラとは、コレラ菌の感染により激しい下痢や嘔吐の症状が出る感染症です。
このコレラは、インドのガンジス川が発生起源とされており、世界で毎年数百万人の感染者がいると言われています。
現在の日本では、ほぼ感染者はいませんが、明治前期に感染が広がり、10万人以上の死者を出した年もあります。
同じく19世紀のイギリス全土でも、コレラが大流行し、数十万人以上の死者を出していました。
その当時、イギリスのロンドンには、現在と同じように優秀な学者や医者がいましたが、何が原因でコレラが引き起こされているのか、はっきり分かっていませんでした。
瘴気説(しょうきせつ)
コレラの原因の一つとして、仮説ですが「瘴気説(しょうきせつ)」というものが信じられていました。
「瘴気(しょうき)」とは、病気を引き起こすと考えられた「悪い空気」のことです。
当時のロンドンは産業革命中で生活基盤が整っておらず、衛生環境がとても悪かったことから、この説が考えられました。
瘴気説に基づき、消臭剤を設置したり、汚物を排除する等の対策が行われましたが、効果はありませんでした。
ジョン・スノウによるコレラの原因究明
そこに現れたのが、イギリスの医者である「ジョン・スノウ」です。
ジョン・スノウは、西暦1813年イギリス・ヨークの生まれで、イギリス女王の出産時にクロロホルムを使用し、世界初の無痛分娩を成功させた名高い医者です。
ジョン・スノウは、ある地域でのコレラの大流行を見て、大規模な調査を行うことにしました。
ある地域の住民の家を訪れ、感染状況を聞き、地図にプロットした結果、感染者のある共通点を見つけました。
その共通点とは、コレラの感染者・死亡者の家は、特定の井戸の周辺に多く、その井戸の水を飲んでいたということです。
ただ、例外のケースもありました。
井戸の近くに工場がありましたが、そこで働く従業員の中には感染者がいませんでした。
実はその従業員らは、水ではなくビールを日常的に飲んでいたのです。
ジョン・スノウは、これらの調査結果から、コレラの原因が「井戸の水」にあると結論付けました。
また、ジョン・スノウは、各家庭が利用している水道会社に目をつけ、2つの水道会社AとBの利用者数と死亡者の調査を行いました。
調査の結果、一万軒あたりの感染者数がBに対してAは、8倍以上も多いということが判明したのです。
水道会社Aの取水口は、河川の下流にありました。
当時の河川は、コレラ感染者の排泄物などが流されており、その汚染された水を水道会社Aは取水していました。
そして、ジョン・スノウはコレラ対策として、井戸の封鎖や水道会社Aの利用を中止させました。
この対策のおかげでコレラの感染者はみるみるうちに減少し、収束へ向かっていったといわれています。
このコレラの原因が「コレラ菌」によって引き起こされることがわかったのは、井戸を封鎖してから30年後の話です。
ジョン・スノウは、コレラの原因が分からない状況にいました。
しかし、現地調査やデータ収集、分析を行うことで、コレラが水を媒介として、引き起こされることを統計学により推測しました。その結果、多くの人々の命を救いました。その後、こうしたジョン・スノウの一連の活動は、「疫学(えきがく)」の基礎となりました。
※疫学…集団で発生する病気を調査、要因を明らかにし、有効な対策に役立てる学問のこと
統計学が確立されていないなかでしたが、複数のグループに分けて調査を行いデータを収集し、その結果に基づいて適切な対策をとっていくというのは、まさに統計学を上手く活用して感染症の対策を立てた事例といえます。
新型コロナウイルスとデータ分析
コレラの流行時にジョン・スノウが行ったデータ収集と同様に、新型コロナウイルスも様々なデータが収集、公表されています。
例えば、以下のようなデータが挙げられます。
- 感染者、死亡者数
- 重症者数
- 入院、療養中の人数
- PCR検査実施状況
- 人出の増減状況 など
自分が住んでいる地域の感染状況や、外出予定先の人出の多さ(外出のリスク)を把握することができます。
また、これまでの感染経験やデータ分析等から、以下のようなことがわかっています。
- 重症化しやすい人
- 換気やマスク着用の効果
- 感染リスクが高まる場面
- クラスターが起きやすい条件 など
これらの情報は、感染を拡大させない、重傷者や死亡者を出さないために、非常に重要な情報です。
ジョン・スノウが調査、データ分析を行い、井戸の封鎖や水道会社の利用を中止させたように、感染症へのデータ分析による客観的な事実にもとづいた対策はかかせません。
まとめ
この記事では、コレラをデータ分析(統計学)により収束させた事例を基に、感染症とデータ分析のかかせない関係について、説明しました。
イギリスの医者であるジョン・スノウは、現代における統計学により、感染者や水道会社の利用状況を把握しました。
その結果、コレラは水を媒介とすることがわかり、対策を実施することで、大勢の人々の命を救いました。
新型コロナウイルスについても、データの収集、分析が行われ、様々な情報が発信、対策が行われています。
感染症を抑えるには、客観的な事実にもとづく対策が必要であり、感染症とデータ分析は切り離せない重要な関係にあるということですね。
(参考記事一覧)
コレラとは(国立感染症研究所)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/402-cholera-intro.html
「統計学が最強の学問である」統計リテラシー、あると何かと便利です。(HONZ)
https://honz.jp/articles/-/22528
統計学が最強の学問である(PDF)
http://toshichan.be.fukui-nct.ac.jp/okumura/2013/sisetsu/toukeigaku.pdf
ジョン・スノウとコレラ(ファルマシア)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/6/50_558/_pdf/-char/ja
コレラ菌が見つかる前にコレラ原因をつきとめた医学者(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/SDI202001244011.html
あやふやな「情報」に決着をつける科学的なよりどころ(自治医科大学)
https://www.yakult.co.jp/healthist/227/img/pdf/p02_07.pdf
特設サイト 新型コロナウイルス(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/
新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(国立感染症研究所)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000861379.pdf
保健師のための積極的疫学調査ガイド
https://www.pref.ehime.jp/h25500/documents/survey2_1.pdf