統計学

詐欺グラフとは 概要や作り方のポイント13個を分かりやすく解説【悪用厳禁】

こんにちは!統計ブロガーのにっしーです!

グラフは、データを見やすくするためにたいへん有効な手段です。

グラフを見れば、ぱっと見でデータの概要を把握することが出来ます。

しかし、その特性ゆえに、パッと見の印象で読み手を騙す目的で作られることもあります。

たとえば、

  • 自社商品を売りたいためによく売れてるように見せかけるグラフ
  • 業績をいいと思われるために急成長しているかのように見せかけるグラフ
  • 自分の支持する結論に持って行くためにデータを操って作ったグラフ など

この記事では、詐欺グラフでよく使われるだましの手段、詐欺グラフの作り方をご紹介します。

このような手段があるのだと知っておくことで、自身がデータを見るときに騙されにくくなります!

くれぐれも悪用はしないでくださいね!笑

それでは見ていきましょう!

詐欺グラフの作り方その① グラフは上から見下ろす


(引用元:https://studyhouse1.jp/pass_record/2020%E5%90%88%E6%A0%BC%E5%AE%9F%E7%B8%BE%E3%80%90%E9%AB%98%E6%A0%A1%E3%80%91/

石川県にある学習塾、スタ○ィハウスのサイトに掲載されたグラフです。

グラフのサイズを大きくし、見下ろす形にして、合格者数が急増したように見せかけています。

また、グラフに縦軸がないため、間違っているとはいえないのもポイントです。

実際数字は年々増加しているため、間違ってはいないのですが、ぱっと見で『急成長した!』と判断してしまいそうで実際の人数を把握しにくいグラフです。

このようなグラフは、たとえば企業の売上などの決算資料などでも使われることがあります。

縦軸を載せず、売上が1%しか伸びていないのに急成長していると見せかけるグラフも過去にありました。

詐欺グラフの作り方その② 遠近法で増えてるように見せる

以下の河○塾の合格者数のグラフをみてください。

河井塾 遠近法

これはもはや芸術ですね。

2016年は1139名と、2015年の1244名よりも少ないにもかかわらず、遠近法を使うことでさも年々合格者数が増えているように見せかけています。

なんとしてでも年々増加しているように見せたいという強い意志がうかがえます。アッパレ!

詐欺グラフの作り方その③ グラフの目盛りは途中から始める


こちらは2020年9月17日に福島テレビで放送された「新型コロナに関するアンケート」のグラフです。

「新型コロナに感染したら、本人のせいだと思うか否か?」についてのアンケート結果を公表しています。

グラフを見ると、イギリスやアメリカに比べ、日本では「本人のせい」だと思う人が半数以上いるように捉えてしまいそうです。

しかし、よくみてください。。

このグラフ、、、目盛りが0%からではなく、80%から始まっています!

そのため本当は少数派の意見である「そう思う」が、多数派の意見のように勘違いしてしまいそうになるグラフです。

福島テレビでは、4日後に修正後のグラフとお詫びの文章を発表しています。

(各グラフの引用元:https://www.gurutto-koriyama.com/detail/1006/news-detail-76032.html

詐欺グラフの作り方その④ 円をゆがませる

円グラフは、ゆがませることで簡単に見た目を変えることが出来ます。

上のグラフでは、一見アメリカが一番多そうに見えますが、実際は中国の方が二酸化炭素排出量が多いです。

詐欺グラフの作り方その⑤ 特定のカテゴリの集計をまとめる

こちらは世界の懲戒処分者数のグラフです。

50代→94人と10~20代→97人と、かなり近い数値にもかかわらず、明らかに10~20代が多いように見せています。

これは、さきほどの円をゆがませるところの復習ですね(笑)

そして今回注目したいのは集計方法です。

30代~50代は、30代、40代、50代と分けているにもかかわらず、10~20代だけ足し合わせることで「若者が多い」という印象を作っています。

集計方法を工夫することで、このように言及したい結論に持って行くことも可能です。

詐欺グラフの作り方その⑥ 波線を使用し軸を省略する


(引用元:https://www.nikkei.com/article/DGXKZO45591500S9A600C1NN1000/

こちらは日本経済新聞が発表した、大卒の初任給の推移グラフです。

グラフを見る限り、5年で約2倍に増えているように見えます。

しかし、縦軸の「20.0」「20.5」の差は、たったの5,000円です。

元記事では、2018年の金額は「前年比0.3%増の20万6700円」と書かれています。

つまり2017年の給与より、620円くらいしか増えていません。

実際の変化はほぼ横ばいなのに、波線を使用し金額を一部省略しているため、5年間で初任給が2倍ぐらい上がっているように見せています。

大卒の初任給は増えている!という結論に合わせて作られたグラフですね。

また、似たようなもので、軸をゆがませるのは、詐欺グラフの鉄板ネタです。

例えば以下のようなものがあります。

0~80までと、90~100までで明らかに軸の幅がおかしくなっています。

これは、そのままですと視聴者にとって差が伝わりにくいと思って作成されたものかと思いますが、一方で正しくデータを読み取りにくくしてしまっています。

また、0から始まらない棒グラフというものもあります。

基本的に、棒グラフは0を起点として始まらなくてはなりません。

そのため、このようなグラフの書き方は正しくありません。

実際上のグラフも、一見10分の1くらいになったように見えますが、実際は20%減ったということで、ぱっと見の印象と大きく異なります。

詐欺グラフの作り方その⑦ 誘導したい結論に合わせたデータだけを載せる


(引用元:https://www.nta.go.jp/taxes/kids/nyumon/page13.htm

こちらは国税庁のHPに載っている、日本と諸外国の消費税を比較したグラフです。

消費税が高い順に、グラフが並んでいます。

日本のグラフは一番右にグラフがあるため、読み手によっては「日本は一番消費税が低い国なのかな?」と勘違いしてしまいそうになります。

しかし、日本より消費税が低い国はいくつもあります(たとえば、2022年8月時点で台湾は5%、シンガポールは7%等)。

しかし国税庁のグラフでは、日本より消費税が高い国しか載せていません。

消費税が10%になった時に更新されてしまったため、現在の公式サイトには残っていませんが、消費税が8%の頃も全く同じ国が並んでいたようです。

意図的に「日本の消費税は低い」と思わせようとしているのかもしれません。。

(引用元:https://twitter.com/mnmr0614/status/1156768595197562880

詐欺グラフの作り方その⑧ 2つの異なる軸を使いこなす


(引用元:https://newspicks.com/news/820697/body/

こちらは、日本のニュースサイトであるNewsPicksで発表されたマンガ市場についてのグラフです。

グラフを見ただけだと、電子コミックの市場規模が急激に伸び、2008年でコミック誌を上回っています。

「紙媒体より電子媒体の方が、人気が出ている!」と捉えてしまいそうです。

しかし、よく見ると、電子コミックとコミック誌の縦軸は、別に存在しています!

2012年時点で比べると、電子コミックの市場規模は、コミック誌のおよそ3分の1程度しかありません。

電子コミックの方が売れているとすぐに勘違いしないよう、必ず軸を確認するようにしましょう。

詐欺グラフの作り方その⑨ 単位を使いこなす~%と‰~


(引用元:https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/27077/00309833/shiryo6-1.pdf)(48ページ右)

2019年の大阪市長選(投票日:4月7日)のために、大阪維新の会がビラを配っていました。

「こども・教育の予算推移」のグラフですが、順調に右肩上がりしています。

「5%から30%まで増えてるなんて凄い!」と思うかもしれません。

ですが、右軸の単位をよく見ると「%(パーセント)」ではなく「‰(パーミル)」になっています。

これは初めてみたとき感動しました。

こんな手法が残されていたなんてと驚いたのを今でも覚えています。

ちなみに、「%」は百分率の単位ですが、「‰」は千分率の単位です。

パーミルは、鉄道線路・トンネル・用水路などの勾配を表すのに用いられる単位ですが、このように全然関係ないところでわざわざ使っているのをみると、数字を大きく見せようという意図があると思われても仕方がありません。

そして、元になったデータには細かい数字が載っています。

3.9‰→30.2‰の増加量となっているので、%に換算すると「約2.6%増加した」だけですね。

(引用元:https://twitter.com/tekina_osamu/status/1316593546107912193/photo/1

詐欺グラフの作り方その⑩ 調査対象の条件を巧みに操る


(出典:https://www.city.kita.tokyo.jp/documents/sinekikei.pdf

2021年10月15日に東京都北区が発表した「新型コロナワクチン接種後の 心筋炎・心膜炎について」のグラフです。

厚生労働省が作成したパンフレットになります。

新型コロナのmRNAワクチンは、日本だけでなく、世界中の人が何回も接種しています。

しかし副反応が心配な声もあり、接種をためらう人もいました。

そこで厚生労働省は

①新型コロナワクチン接種をした人
②新型コロナに感染してしまった人

それぞれの人数を集計し、心筋炎・心膜炎の発症数を比較できるグラフを作成し、国民からの信頼を得ようとしています。

グラフを見る限り、新型コロナに感染した時よりも、ワクチンを接種した方が、心筋炎・心膜炎の発症数が低いです。

厚生労働省が発表しているデータですから、信頼してワクチン接種に行った人も多いでしょう。

ですが、この発症数の集計方法に問題がありました。

元となった資料は、2021年07月27日に厚生労働省が発表した「心筋炎関連事象疑い報告の状況について」の資料です。

2枚目のレジストリー概要にある通り「②新型コロナに感染してしまった人」を、入院患者に限定しています。

また、対象の年齢も「15歳~39歳」で幅広いため、年齢層を10代と20代で分けてある「①新型コロナワクチン接種をした人」と同じ条件とは言えません。

他にも、入院患者の対象人数は「4,798人」しかおらず、実際に心筋炎・心膜炎を発症してしまったのは、たったの「4人」です。

しかし「100万人あたり」に合わせるために、200倍に引き延ばした、仮定の人数を載せてしまいました。

このように、集計元の

・健康状態
・年齢層
・実際の数値か否か

が異なるデータで作成されたグラフですので、信ぴょう性に欠けてしまったと言えるでしょう。


(出典:https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000844075.pdf)(11ページ目)


(出典:https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000844075.pdf)(30ページ目)

詐欺グラフの作り方その⑪ 目立たせたいデータだけ軸を変える


(引用元:https://twitter.com/KamiMasahiro/status/1290150357528489985

内科医の上昌広(かみ まさひろ)氏が、2020年8月3日にTwitterに投稿したグラフです。

日本の新型コロナ感染者数が、7月1日から少しずつ増加し始め、7月29日には大幅に膨れ上がっています。

グラフだけを見ると『国別でコロナ感染者数を集計すると、何故か日本だけ極端に多い』と捉えてしまいそうです。

しかしよく見ると、日本のコロナ感染者だけ、グラフの縦軸がもう一つ用意されています。

縦軸の数値は10倍以上の差があるため、日本だけ突出している訳ではありません。

『日本の新型コロナ対策が遅れている!』と指摘したかったのかもしれませんね。

詐欺グラフの作り方その⑬ 集計方法で結果を変える


(引用元:https://seniorguide.jp/article/1405224.html

シニア世代や、その家族向けの生活情報を発信しているサイトである「シニアガイド」に掲載されていたグラフです。

このサイトに限らずですが、様々な媒体から「新型コロナワクチンを接種する度に、感染予防効果がある」という統計結果が出ていました。

そのため「新型コロナワクチンを何度も接種するのが望ましい」という風潮がありました。

ですが、2022年06月07日に、この統計結果の集計ミスが発覚したという発表が出ています。

「ワクチンを打ったけれど、いつ打ったかは不明な人」は、本来「接種歴不明」として数えるのが適切でした。

しかし政府の情報共有システムの設定ミスにより「未接種者」として計上されていたのです。

そして正しい集計になるように修正したところ、なんと「未接種者」より「2回接種者」の方が、陽性率が高くなる結果が導き出されてしまったのです。

今回のグラフは、新型コロナワクチンの感染予防効果と比べ、日本だけが異常に高い数値を出していました。

海外のデータも精読しないと違和感に気付けないため、一般の人が不正を見抜くには、非常に難しいケースです。

集計ミスなので、わざとデータを高く見せるようないわゆる詐欺グラフのようなものとは少し異なるものの、ワクチンは命に関わることなので、そもそも集計ミスが起きないように再三の確認が必要だったのではないかと思います。

ちなみに、集計で結果が変わる例をもう一つご紹介します。

こちらは、タブレットの種類毎のシェアのデータですが、なぜかiPadだけ細分化されているため、ICONIA TAB A500に負けてしまっています。

実際、iPad2のデータを足し合わせると、タブレットの中でもiPad2のシェアが圧倒的に多いはずですが、売れてるように見せたい機種があり、このようなグラフを作ったのではないかと考えられます。

まとめ

今回は、詐欺グラフの作り方をご紹介しました。

グラフは視覚的に判断しやすく、短時間でイメージが湧きやすいメリットがあります。

しかし残念なことに、作成者が誤解を招くように作成した場合、見た人が情報を勘違いするように仕向けることは容易に出来てしまいます。

だからこそ私たちに求められるのは、グラフをパッと見で判断せずに、細かいところまで見る注意力です。

特に詐欺グラフのポイントを押さえておけば、その点を確認するだけで、多くは騙されずにすむようになります。

最後に、今回ご紹介した詐欺グラフの作り方をまとめると、以下の通りです。

  • グラフは上から見下ろす
  • 遠近法で印象を操る
  • グラフの目盛りは途中から始める
  • 円はゆがませて見た目を変える
  • 集計方法で結果を操作する
  • 波線を使用し軸を省略したり、軸の幅をゆがめたり
  • 誘導したい結論に合わせたデータだけを載せる
  • 2つの異なる軸を使いこなす
  • 単位をあやつる 例えば、%と‰など
  • 調査対象の条件をあやつり、誘導したいデータを作る
  • 目立たせたいデータだけ軸を変える

世の中には、上記のほかにも色々なだましの手段があるかと思います。

特に自身に影響の大きいデータについてだけでも、注意深く見るようにしましょう!

世の中の怪しいデータに惑わされないためには、データリテラシーを高めることが重要ですので、是非学んでみてください。

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  • この記事を書いた人

にっしー

フリーランス3年目の29歳。 専門統計調査士など、統計に関する資格を複数保有。 自分が数学苦手だった文系だからこそ書ける、分かりやすい情報発信を心がけています。 著書『これから学ぶ人のための統計学超入門』 寄稿実績『知識ほぼゼロからデータ分析の専門家になる(週刊東洋経済)』、『50歳からの学び直し入門 (インターナショナル新書)』(一部)

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